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サムシング ライク ミー

末むつみ Mutsumi Sue

2006年1月14日(土)~ 3月11日(土)
会期中の木・金・土のみ[Open]→ 12:00 ~ 19:00
*月~水および日曜は[Close]ですが、アポイントメントで[Open]いたします。

オープニングレセプション:1月14日(土)18:00 ~ 20:00
*初日、作家を囲んでのレセプションパーティーを開催いたします。
皆様のご来廊をお待ちいたしております。お気軽にご参加ください。

ものに対する思い入れを大事にしている末むつみが紡ごうとする " 物語がはじまろうとする気配、質感 " 。想像と現実との境目をくるくる、くるくる、とループする、そのイメージのレイヤーにふれてください。

Mutsumi Sue Work


 

末むつみの作品のなかに、トレーシングペーパーや油紙のうえに、ボールペンを用いまるで電話機の受話器コードのような細かいループを描くシリーズがあります。ペン先で細かいループをくるくる、くるくると描き、くねくね、くねくねと移動させつつ、作品全体を構築していくそのシリーズでは、作品の前に立つと、至近距離から受ける印象と距離を置いたときの印象が異なることに気づくでしょう。そこでは、観る者と作品との距離によって浮かび上がる重層的な関係性が、作品に近づいたり離れたりすることで見えかくれします。その関係性は作家自身が人一倍ふだんから興味を抱き、気にかけているという「人間関係」の複雑さ、深さ、はたまた人に対する期待感のようなものが、幾層にも重なったイメージのレイヤーとして表現されているのではないかとも考えられます。 また、作家は、薄い紙の上にできる筆圧のへこみや、ゆがみ、しわ。そのような収縮した感じやボコボコした感じ、ひっかかりに、愛らしさを感じるといいます。平面 を描くというよりは、平面でありながらも、へこみや、ゆがみ、しわや、凹凸を持たせたり、素材を重ね、貼り合わせたりすることで動きやボリューム感を持たせ、平面 と立体との境目を行き来する作品を制作しています。 作品のモチーフは、作品タイトル「クリームE」や「小麦粉に卵と砂糖・水飴とをまぜて焼いた菓子」などからもうかがえるように、作家の身近なもの、とりわけ「食」に関するものが多く選ばれています。 制作のきっかけは、きわめて感覚的であって、どうやら「ズレのようなもの」への愛着から生まれてくるようです。 では、「ズレのようなもの」とはいったい何なのでしょうか。それは、想像と現実との境目の部分にあるのかもしれません。 たとえば、柱時計がふいに動いた場合。その瞬間を観た者の意識はどう働くか。なかには、地震が起きたのではないかと疑う人がいるかもしれない。なかには、霊的なものが動かしたと非現実的なことを思う人がいるかもしれない。なかには、目の錯覚だとか、たまたま何かにひっかかっていたのがはずれただけだとか。何も気にとめずに過ごす方も多くおられることでしょう。本当は動いてはいないのかもしれない、ということも考えられます。 作家曰く、「想像したことが実際に起こるか起こらないかはどちらでもよいのです。」と。起こる起こらないの境目。「ズレのようなもの」というこの微妙な部分が、ペン先で描く細かいループと異次元で重なり合うように、想像と現実との境目をくるくる、くるくる、とループする。その意識の層に、作家は人並みはずれた思い入れを抱くのでしょう。 末むつみ自身、これまで絵画にはじまり、絵本にいたるまで。さまざまな想像を繰り返し、さまざまな作品を制作してきました。なかでも、絵本に代表されるような物語性が、現在の作品においても根底に見受けられます。ものに対する思い入れを大事にしている作家が紡ごうとする「物語がはじまろうとする気配、質感」。この辺りに制作の動機らしきもの、「ズレのようなもの」が、ひそんでいるのかもしれません。 愛らしい世界の中へ入るでもなく、入らぬでもなく。その世界の入口付近で行ったり来たりを繰り返す。くるくる、くるくる。くねくね、くねくね。ループするイメージのレイヤーの、その様が、わたしたちの心の琴線や美意識にぬ ぐいきれぬ何かを投げかけてくるのだといえます。

ディレクター 南口俊樹


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